頼忠が紫紺の衣を木の枝から取ろうと手を伸ばした瞬間、強く後ろから抱きつかれ足元が崩れた。
思いも寄らない出来事に頼忠は何が起こったのか一瞬戸惑った。
「清正殿!いかがいたした。」
「頼忠、頼む。一度でいい、抱かせてくれ。」
と言うが早いか頼忠の腰布の中へ手を入れ柔らかい果実を弄った。いきなりとは強引だ。
「ああ、これがおまえか。」
「あ・・・んっ!清正・・・殿。」
木に押し付けられ後ろからぐいぐいと股間を絞り上げる手に硬くなったその部分が腰布にくい込み苦しい。
それを察して清正は腰布の脇からそれを取り出すと頼忠を正面に向かせ、手を動かしながら体を舐めるように見る。
腰布から開放されたそれは生き物のように股間から突き上がり、猛りで赤い艶を増すと懇願するように先に蜜が湧く。
頼忠は院の記憶も消えないうちに性欲が股間に集中してしまった。
男との交わりに慣れていない清正でもどうすれば気持ちがいいかは知っている。そこをうまく突いてしごく。
艶やかな茎の蜜を指に絡ませじっと見据える。見慣れたものなのに、それが頼忠のものとなるとこうも有り難く思うのか。
清正はそれを口に含むと、敏感な頼忠を味わう至福に唾液がこぼれた。
頼忠の息は荒く、瞳は快感でじっとり潤む。
声は出さないが、硬い肉体に体中の神経が集まり拒否の出来ない状態まで堕ちた。
「おお、美しい。頼忠、噂以上に美しい。」
「し、知らぬ。そのようなうわ・・・。」
再び手で股間を弄られ、その動きがより強くなり頼忠の限界が近づく。清正の腕の筋肉が頼忠の絶頂を期待して踊る。
「さあ、出せ。我慢できないのだろう?出してもっといい顔を見せてくれ。」
激しく弄られる頼忠はとうとう絶頂の声を上げ震えながら性欲を放出した。
その瞬間を清正はしっかり見届けてから見上げた頼忠の快楽の表情に魂を奪われてしまった。
頼忠は咽の奥から極みの吐息を漏らすと精を出しきった後の痙攣が走る。
妖艶さに清正はもう我慢できず、頼忠の 腰布を一気に剥ぐと頼忠を押し倒し腰を持ち上げ尻の間に舌を入れた。
「あうっ。」頼忠が朦朧とした意識の中で声を上げる。 美貌が羞恥で益々色艶に染まる。
舌は容赦なく蕾を広げ、内側までぬらぬらと這うと次第に開花する菊座。
四つん這いの頼忠は髪を乱し、腰を高く突き出して舌の刺激に応える。
「入れて欲しいのだろう?おまえのここに指が2本入ってしまった。なんと卑猥な男よ。」
滴る汗に顔を歪ませる頼忠だが、せがんでいる体は熱くなり足りないものを欲しがる。
清正は袴を下ろし張り詰めた股間の肉体を頼忠の蕾にあてがい余裕さえ失って一気に押し入れる。
無理やりねじ込む男のものに頼忠は悲鳴を上げるが体の奥へとしっかり咥え込む。
清正は己を小刻みに動かしてはねじり上げさらに奥へと突き刺す。
だんだん中が締まってきたと思うと、目覚めたようにその締め方が激しく強くなってきた。
「た、たまらない。ここは極楽だ。」
頼忠も息が早くなり清正に合わせ腰を前後に動かすと汗が滝のように流れ出す。
清正のものが自分の欲しいと思うところへ届くように、妖獣のしなやかさで腰がうねる。荒い息で肩も大きく揺れる。
「もう、だめだ。これ以上我慢できぬ!」
抜き差しが早くなり、あっという間に清正は果てた。
背中から抱きつく清正が腑抜けになったのが分かると、頼忠は自らの手で股間をこすり始めた。
この者はもう頼忠の精を抜く余裕などない。
「ああ。」自分でこの情事に終止符を打った。
虚しい。
自分を求める男は勝手に美しいと誉めそやし満足していく。 身勝手な男を怨むより、止められない自分が悔しい。
本当に自分に美貌があるならそのようなものは要らない、もっと自分を解ってくれる者が欲しい。
しかしいつものように頼忠はそれを隠し、解ってもらおうなどと相手に押し付けたりもしない。
私の気持ちなどどうでも良いと思えば何も考えないで済む。
突然、人の強い視線を感じ木陰に目をやる。今まで気づかなかった。
『誰か見ていたのか?!』
木立ちの影から背の高いすらりとした男と目が合った。
その男、慌てて隠れる様子もなく逃げる気もない。
髪が長く、大きくはだけた胸から察するにかなりの体格の持ち主だ。一目では細身だが背丈でそう見えるのかもしれない。
習慣から頼忠の瞬時の観察力はかなり高い。
体が軽くなったと思ったら、清正は立ち上がってゆっくりと身づくろいをし始めた。
「すまなかったな頼忠。だがこのように満ち足りたのは初めてだ。また会ってくれぬか。」
うつ伏せのまま顔も上げず、その言葉にいつもの頼忠の声で答える。
「私には約束できないことがあります。隠し通せる自信があればよいのですが、知れた時あなたに大きな迷惑がかかりましょう。」
それとなく院のことを匂わして断った。使いたくない手だが二度と密会をしないですみ、根に持たれることもない。
「そうかも知れぬ。だが・・・。」と言う清正の言葉をさえぎり、
「ご安心ください、今日のことは黙っています。私のことは気になさいますな、くれぐれもお気をつけてお帰りください。」
なんとも冷たい態度に清正は現実に戻った。しかし的確な頼忠の答えに逆らう術もない。
「私があの御方ならおまえを塗籠に閉じ込めておきたい。」
「あなたは”清正殿”でよかった。」
妻子の為にも院を裏切るわけにはいかない。こうして清正は馬に乗り、未練を抱きながら束の間の夢と封じ清滝を後にした。
それより残された頼忠には先ほどの男が気になって身を起こした。
誰であろう。京では見かけぬなりをしているが恐ろしく自信に満ちた顔をしていた。
見回すとそこにはもう誰もいない。
あの目には欲情でなく、うっすら同情の笑みさえ感じられた。
『残念だったね』というような労わるような笑み。
今は青葉がそよそよと揺れているだけだった。ため息一つつくと、「会うことはあるまい。」と再び川の中に入って行った。
「紫紺に桔梗の衣か。何処ぞの武士であろう。」
先ほど情事を見ていた男はつぶやいた。
攻められるままに快感に狂うしなやかで美しい男。迸る精に恍惚とした色香が目に焼きついた。
そして最後まで物足りなさを埋められなかった頼忠に気づいていた。
「京の武士であれだけ美貌の者はいない。いや京どころではないね。 慌てずとも京にいる者ならすぐにでも見つけられるさ。」
「お頭、探しましたぜ。こんな山ん中何をほっつき歩いていたんですかい。」
「心配かけてしまったかな、すまないね。先ほど寺を嗅ぎ回っていた武士を追ってみたのだけど、 何も分かってはいないようだ。」
「そんなことは俺たちがやることです。お頭。」
「君たちを呼ぶ暇がなかったのだよ。その代わり探して欲しい男がいるのだが頼めるかな。」
数人の逞しい男たちと山を下りる『お頭』と呼ばれた男。
このずっと後にこの男と頼忠は奇妙な縁で再び出会うのであった。
完
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